芥川龍之介「桃太郎」も、福沢諭吉の桃太郎盗人論を参考にした?

「桃太郎」絵本コレクターの私にとって、池澤夏樹「桃太郎と教科書 知的な反抗精神養って」(「終わりと始まり」、「朝日新聞」2014.12.2朝刊)は大いに興味を引かれる記事だった。
池澤氏の次の文章が高校の教科書に引用され「日本人の(略)心性を最もよく表現している物語はなにか。ぼくはそれは「桃太郎」だと思う。あれは一方的な征伐の話だ。鬼は最初から鬼と規定されているのであって、桃太郎一族に害をなしたわけではない。しかも桃太郎と一緒に行くのは友人でも同志でもなくて、黍(きび)団子というあやしげな給料で雇われた傭兵(ようへい)なのだ。…彼らは鬼ケ島を攻撃し、征服し略奪して戻る。この話には侵略戦争の思想以外のものはなにもない。……「狩猟民の心」を書いた時はこれは、自分のオリジナルな発見だと得意になった。世間の桃太郎イメージを逆転できる! 
 しかしずっと前に同じことを明治期の偉人が言っていたのだ──「もゝたろふが、おにがしまにゆきしは、たからをとりにゆくといへり。けしからぬことならずや。たからは、おにのだいじにして、しまいおきしものにて、たからのぬしはおになり。ぬしあるたからをわけもなくとりにゆくとは、」もゝたろふは、ぬすびとゝもいふべき、わるものなり。…たからをとりてうちにかへり、おぢいさんとおばゝさんにあげたとは、ただよくのためのしごとにて、ひれつせんばんなり」福沢諭吉が子供のために書いた『ひゞのおしへ』である。…ぼくが書いたことはぜんぜんオリジナルではなかった。」



 芥川龍之介「桃太郎」も、福沢諭吉の桃太郎盗人論を参考にしたものと思われ、平和な鬼ケ島を侵略し略奪する桃太郎になっている。「自由と我儘との界(さかい)は他人の妨(さまたげ)を為すと為さざるの間にあり」(福沢諭吉「学問のすゝめ 初編」の影響をおおいに受けたものと思われる。

寺門孝之・画、芥川龍之介「MOMOTARO」(ピエブックス、2005年)


寺門孝之・画、芥川龍之介「MOMOTARO」(ピエブックス、2005年)


寺門孝之・画、芥川龍之介「MOMOTARO」(ピエブックス、2005年)