芥川龍之介の短編集『沙羅の花』も凋落し易いものかも?

芥川龍之介の短編集『沙羅(しゃら)の花』 (改造社大正11年8月、装幀:小穴隆一)の「自序」に「……沙羅の花は和漢三才圖繪に拠れば、白軍辧状似山茶花而易凋といふ事である。是等の作品も沙羅の花のやうに凋落し易いものかもしれぬ。かたがたふと思ひついた通り、この選集の名前にする事にした。大正十一年七月」と、書物のタイトルの謂われについて書いている。

小穴隆一:画、芥川龍之介『沙羅の花』前扉(改造社大正11年8月)


沙羅の木は別名「夏椿」といわれ、初夏の頃に椿のような純白の花を咲かせ、花びらは散らさずに花の形のまま落下する。この散り際の潔さを石田波郷は「沙羅の花 捨身の落下 惜しみなし」と比喩している。


 芥川龍之介には沙羅の花をモチーフにした四行詩があり「また立ちかへる水無月の 嘆きを誰にかたるべき。 沙羅のみず枝に花咲けば、かなしき人の目ぞ見ゆる。」(大正14年5月)と、沙羅の花咲く別荘での片山宏子との交遊と禁じられた恋の思いを、親友・室生犀星宛ての手紙に書いた「相聞」三章に托して告白している。