龍之介を死出の旅に案内した「ピーターパン」

菊池寛芥川龍之介共訳「ピーターパン」(『小学生全集』與文社・文藝春秋社、昭和4年4月)。この本は芥川龍之介(明治25 - 昭和2年7月24日)がなくなって2年3ヶ月後に発行されたもの。

加藤まさを:画、菊池寛芥川龍之介共訳「ピーターパン」(『小学生全集』與文社・文藝春秋社、昭和4年4月)表紙



加藤まさを:画、菊池寛芥川龍之介共訳「ピーターパン」(『小学生全集』與文社・文藝春秋社、昭和4年4月)口絵



一木紝:画、菊池寛芥川龍之介共訳「ピーターパン」(『小学生全集』與文社・文藝春秋社、昭和4年4月)本文挿絵


芥川は『小学生全集』の「ピーターパン」と「アリス物語」の翻訳に携わっていたが両方とも刊行を見ずして自殺した。共訳となっているのには菊池寛の「この『アリス物語』と『ピーターパン』とは、芥川龍之介氏の担任のもので、生前多少手を付けてゐてくれたものを、僕が後を引き受けて、完成したものです。故人の記念のため、これと『ピーターパン』とは共訳と云ふことにして置きました。」(『アリス物語』注意書き)という文章にあるような事情があったからだで、芥川がどこまで翻訳を手がけたのかは不明だ。


芥川の自殺の一因がこの『小学生全集』と、北原白秋の弟・鉄雄が経営するアルスが発行する『児童文学全集』の出版企画をめぐり、芥川にとって師である菊池寛北原白秋が対立することになり、その板挟みに悩んでいたことでもあると言われている龍之介を死出の旅に案内した1冊だ。