漫画本から一休さんが実在の人物だと知った

小学生の頃、「♪い〜っきゅうさん、いっきゅうさん♪このはしわたっちゃいけません♪」と給食の時間に一休さんの歌が流れていて、今だにメロディとともに歌詞までがはっきりと浮かんでくる。その後、一休さんについては特に興味を持つこともなく写真❶のようなとんち話の一休さんとしてしか知らなかったし、架空の人物だとおもっていた。

左/平田 昭吾 大野 豊 「一休さん 」(世界名作ファンタジー28)ポプラ社,1988
右/由紀さおり安田祥子のよみきかせ絵本『一休さんスターフィッシュエスディ


ところが、実は、なんと室町時代後小松天皇の子供として生まれ、本来なら皇子となる身分なのだが、母親が天皇家の敵である家系のため、御所を追われお寺に預けられたといわれている事を知った。
 おもえば、確かに小坊主といえども、人をからかうようなとんち話で大人をからかって、どうして怒られないんだろうと、不思議な感じを幼心ながらいだいていた。


晩年には、僧であるにもかかわらず森女という盲目の美人遊芸人と同棲していたり、大徳寺の住持になって20億円に匹敵するとも言われる寄進を集め戦火で消失した寺を復興したなどなど興味深い話があふれている。半世紀に及ぶ知識の空白が、写真❷の漫画本、水上 勉/佐々木 守/小島 剛夕『一休伝 (上、中、下) 』(ホーム社漫画文庫、2005年)によって埋められた。


しかし、盲目の若い女性がどうして一休と一緒に生活するようになったのかについては、単なる情け深いお坊さんではない、もう少し深いわけがありそうだ。あるいは、いったん拒否した大徳寺の住持の話をなぜ受け入れたのかということについても、十分な説明はなされていないが、ノンフィクションとしての一休伝はおもしろく興味深い。


漱石や龍之介、鏡花など私の文芸作品に関する知識の多くは漫画本によって蓄えられてものが多い。写真❸は、「挿絵画家・木俣清史」を書くために集めた木俣清史:画、野田開作『一休和尚』(偕成社、昭和31年)。