最初の検定教科書「読書入門」が参考にした本

捨てられない本として今回、自宅に持ち帰ったEduard Bock「DEUTSCHE FIBEL」(BLESLAN、1872)は、日本最初の検定教科書「読書入門(よみかきにゅうもん)」を制作するに当って見本としたといわれる書物で、日本にも指折り数えるほどしかないと思われ、わが架蔵書で一番の貴重書といえる。

日本最初の検定教科書「読書入門(よみかきにゅうもん)」(明治19年



Eduard Bock「DEUTSCHE FIBEL」(BLESLAN、1872明治 5年)



Eduard Bock「DEUTSCHE FIBEL」(BLESLAN、1872明治 5年)



Eduard Bock「DEUTSCHE FIBEL」(BLESLAN、1872明治 5年)



Eduard Bock「DEUTSCHE FIBEL」(BLESLAN、1872明治 5年)


 『読書入門』は明治の模範的初歩教科書で、小学校入門の最初の半年間に読み書きを学ぶための入門書。著者は、当時文部省編輯局で伊沢修二局長のもとで教科書の編纂をしていた湯本武比古(ゆもとたけひこ 1857−1925)。湯本の著書『教育五十年』にも「『読書入門』は元来独逸の読本によったもので…ドイツのボツクの著わすフィーベルならびにレーゼブツクにおおいに学ところがあり、自分の創意も加えて作成した」と記されている。



 「DEUTSCHE FIBEL」の読みにくい亀の子文字をアルファベットに置き換えてみると、表紙の著者名らしきところに「Eduard Bock」とあり、「Deutsches Lesebuch 」(ドイツ語読本)、「Deutschen Fibel」(ドイツ語入門)の文字も確認でき、この本が湯本が参考にしたボックの「フィベールならびにレーゼブック」であることがわかる。発行年は1872年(明治5年)で、明治19年に発行された『読書入門』の編集段階で参考にしたとしても、つじつまが合う。



 大橋敦夫『湯本武比古『読書入門』の編纂をめぐって』(上田女子短期大学国語国文学会「学海」十号、平成六年)で資料として取り上げている『ボック第一読本』の扉の写真には「Seibente Stereotyp」とあり1896年(明治29年)発行の第七版であると思われる。
 手元の本には「sterotyp」の表示がないので初版なのであろう。私が調べた範囲では、専門書などに掲載されているのを見たこともなければ、多くの図書館にも見当たらなかった。恐らく日本に数冊しかないのではないかと思われる。