伊藤左千夫『野菊の墓』爽やかな恋と切ない結末が私の野菊のイメージ

野菊は、野生の植物で秋に咲き菊に見えるものの総称で、特定の花をさしているわけではない。最も身近に見られる野菊の代表はヨメナであるが、近似種と区別するのは簡単ではなく、一般には複数種が混同されている。野菊としては最もそれらしいのがノコンギクであろう。


そんな野菊を見るたびに思いだすのは、
「まア綺麗な野菊、政夫さん、私に半分おくれッたら、私ほんとうに野菊が好き」
「僕はもとから野菊がだい好き。民さんも野菊が好き……」
「私なんでも野菊の生れ返りよ。野菊の花を見ると身振いの出るほど好(この)もしいの。どうしてこんなかと、自分でも思う位」
「民さんはそんなに野菊が好き……道理でどうやら民さんは野菊のような人だ」
(略)
「政夫さん……私野菊の様だってどうしてですか」
「さアどうしてということはないけど、民さんは何がなし野菊の様な風だからさ」
「それで政夫さんは野菊が好きだって……」
「僕大好きさ」〔伊藤左千夫野菊の墓』新潮社、1955年〕より

伊藤左千夫野菊の墓』(新潮社、1955年)


この爽やかな恋と切ない結末が、私の野菊のイメージになってしまっている。