「 ふしぎなえ」、「ABCの本」、「天動説の絵本」、「旅の絵本」「野の花と小人たち」などの絵本で知られた安野光雅さんが2020年12月24日に94歳で逝去した。今回発売された『ユリイカ』は、そんな安野の追悼号だ。私は仕事でも趣味の消しゴムハンコでもずっと安野光雅の背中を追いかけていました。「西東京かるた」の消しゴムハンコに使われている文字は私が「あんみつ体」と名付けている安野光雅の切り絵に使われている文字だ。
水彩画を描き始めたのも安野光雅の影響でした。
リスペクトしすぎて集めた安野光雅が手がけた装丁本は130冊を越えている。写真左=安野光雅、井上ひさし『雪やこんこん』(朝日新聞社、昭和62年)、中=安野光雅、椎名誠『日本細末端真実紀行』(日本交通公社、昭和59年)、右=安野光雅、森本哲郎『ことばへの旅』(ダイヤモンド社、昭和50年)。いずれ、架蔵本を全部スキャンして、ブログにアップしようと思っているが、大量に掲載すると、日本著作権協会からクレームが出そうなので、ちょっと不安だが、装丁なら大丈夫かな?
安野光雅の装丁のなかで、最高傑作だと思っているのが、井上ひさし『吉里吉里人』(新潮社、1981年)だ。一見、昔の町の俯瞰図のように見えますが、実は謎解きのように、様々な意味を込めた絵が描きこまれているんです。例えば、井上ひさしの幟が立てられている劇場や、安野のふるさと津和野の同郷人・森鴎外が散歩している庭、坊ちゃんが出てきそうな温泉、川では、おばあさんが洗濯をしており、上流から桃が流れてきている、などなど宝探しのように様々なストーリーを発見する楽しみが描きこまれているんです。
安野光雅が「ふしぎなえ」を描くきっかけになったのは、エッシャーの本との出会いだった。その時の衝撃を「パリに行った。ゴッホの墓とエッシャーの本は、軍隊で上等兵にぶん殴られて以来の顔の痛みを再発させた」(『はじめてであう数学の本』福音館書店、一九七二年)と、その時の衝撃ぶりを表現している。画像左=M,C,エッシャー「リトグラフ〔滝〉(『エッシャーの宇宙』朝日新聞社、1983年)、右=安野光雅:絵、『ふしぎなえ』(福音館書店、1968年)。