時代背景が昭和初期ということで読み始めた北村薫『街の灯』

時代背景が昭和初期ということで読み始めた北村薫『街の灯』(文春文庫、2006年、イラスト:謡口早苗、デザイン:大久保明子)だが読み始める前から、少々気になることがあった。
 表紙に描かれた服部時計店(現和光ビル)のビルの左端が長すぎるように思えるのだが? 4連の窓と窓の間にあるレリーフ彫刻が4つ目でビルは終っているはずなのだが、現在の右の写真と比べて見ると、どうも窓を描きすぎたかのようにみえるのだが?


さてそれはさておき、本文31pに「尾張町の角の、歩道の頭上にも、雨避けの天井のように、2階にぐるりと現場事務所が巡らされていた。その服部時計店の工事ももう少しで終る。『金太郎さんのお店が出来たら、桃太郎の新しいものでも買いに行きましょうか』時計店の店主は、服部金太郎いうらしい。桃太郎というのは婦人用の時計で、蓋がちょうど御伽噺の桃でも割るように二つに割れて開く。よく出来た偶然だ。」と、ある。服部時計店が工事中と言うのは、昭和3〜4年頃のことか。はて、この金太郎さんは服部時計店の店主の名前であることは分かったが、「桃太郎」って言う名の婦人用の腕時計って気になりませんか? 調べました!作家さんはこんなマニアックなものまでよく調べるもんですね!

左は昭和4年竣工記念絵はがきより服部時計店、右は桃太郎式懐中時計


さて、もう一つ、この話の背景となる年代を特定しようと思うのだが、20pに「…大震災の年というから、今から九年前、名手クライスラーは日本にやって来て、帝劇で演奏会を開いた。小学生だった雅吉兄さんは、母に連れられて聞きにいっており、それが自慢なのだ」とあるので、関東大震災(1923〈大正12〉年)の「九年後」つまり1932〈昭和7〉年が、この小説の舞台ということになるのだが……。
 昭和7年には服部時計店のビルはすでに完成しているはずでは……? 31pの「金太郎さんのお店が出来たら、桃太郎の新しいものでも買いに行きましょうか」というのは、服部時計店が竣工する前、昭和3〜4年頃の会話になってしまうのではないかと思うのだが? 
 私の読み違いかな? 北村薫さんのことだから、この辺のところはしっかり抑えてあるはずだから、もう少し詳しく読んで見よう。