20年ぶりに忽然と月下美人が咲いた

「地上のあらゆる静物が寝静まった深夜の冷気のうちに、突如として葉の末端から花茎を延ばし、刻々に予想を破り絡みつく蛇ような蕚(がく)から抜けだし、素白の大輪の花弁を喘ぎ喘ぎ開き、深山の霧の凛冽たる香を放ち、さて一瞬の停止を絶頂として倐忽(しゅくこつ=にわか)と凋(ちょう=しぼむ)びてしまう月下美人…」(関川左木夫「ビアズレイの芸術と系譜」東出版、昭和51年)と、世紀末の歴史の転換期の混沌たる社会に、月下美人の妖気を負って出現したビアズレイの芸術に例えられた月下美人が、昨夜、まさに忽然と20年ぶりに咲いた。



そして一晩だけの栄華は夢だったのかと思わせるほどに、翌朝には眠りから覚めようともせずにうなだれていた。