昨日紹介したのは新潮社版『眠狂四郎無頼控』だが、今日は桃源社版、御正伸:装丁、鴨下晁湖:挿絵柴田錬三郎『眠狂四郎無頼控』(桃源社、昭和46年)「剣の人々」「桃花無明剣」の2冊がネット通販から届いた。



御正伸:装丁、鴨下晁湖:挿絵、柴田錬三郎眠狂四郎無頼控』(桃源社、昭和42年)、「剣の人々」「桃花無明剣」


新潮社版には挿絵が章扉ごとにタイトルの下に挿入されているのでサイズが小さく数も各巻15点前後だが、桃源社版は各巻二十数点が1頁大で挿入されているので、挿絵が好きな人にはちょっとお得感がありお勧めです。



鴨下晁湖:挿絵「忍組覚書」、柴田錬三郎眠狂四郎無頼控 桃花無明剣』(桃源社、昭和46年)



鴨下晁湖:挿絵「青銅の顔」、柴田錬三郎眠狂四郎無頼控 桃花無明剣』(桃源社、昭和46年)



鴨下晁湖:挿絵「月の濡肌」、柴田錬三郎眠狂四郎無頼控 桃花無明剣』(桃源社、昭和46年)


錬三郎は、
「私が、机に向かって、唸りながら、四六時中考え続けたのは、ストリーイではなく、主人公の悪党にふさわしい名前であった。私は、その名前さえ思いうかんだならば、この週刊誌読み切り連載は、成功する自信を持った。私は、十日あまりの間に、数百の名前をつくった。北海道の奇妙な地名を、くっつけたり、さかさまにしてみたりした。やがて、私は、少し考えを変えた。ひと目で、だれもが、おぼえてしまう名前にしようと、肚をきめたのである。それというのも、「大菩薩峠」を読んだ人は、さまでは多くないであろうが、「机竜之助」という名前は、だれでも知っているはずであった。机は、すくなくとも、小学校へかよった者なら、毎日、それに就いているからである。人間の日常にとって、絶対に欠かせぬものはないか?−そうだ、人間は、毎夜、睡眠をとらなければならない!眠だ! 私は、悪党の姓を「眠」とつけた。悪党である以上、その名も、異常でなければなるまい。狂っている奴だ。」(柴田錬三郎、読売新聞昭和51年6月12日より)


と、主人公の名前を一度見聞きしたら忘れられない「眠」を付けるのに苦心をし、それまでの求道者的な剣士とは異なる剣を殺しの道具とするニヒルな剣客像をつくりあげ、妖麗凄絶なエロティシズムを加味するなど新たな時代小説を作り上げた。


晁湖もそれに答えるように「まず第一に殺しのシーンで血しぶきをあげて倒れる人物の姿を描くようになった。これはそれまでのチャンバラの殺陣が踊の形を踏襲していたのに比べてそのものズバリの表現に変わったことを意味する。


晁湖は温厚な人だっただけにはじめはそういった場面を描くことに抵抗をおぼえたようだが、作者の要求がつよく、それをのむことになる。しかしこういったやりかたは当時の読者に迎えられ、新しいパターンをつくりだした。」(尾崎秀樹『さしえの50年』平凡社、1987年)こうして作家と挿絵画家が、協働し知恵をしぼった結果が大ヒットを生み出すことに繋がった。



鴨下晁湖:挿絵「おらんだ殺法」、柴田錬三郎眠狂四郎無頼控 剣の人々』(桃源社、昭和42年)



鴨下晁湖:挿絵、柴田錬三郎眠狂四郎無頼控』(桃源社、昭和42年)



鴨下晁湖:挿絵「剣の人々」、柴田錬三郎眠狂四郎無頼控 剣の人々』(桃源社、昭和42年)