落款にも画風や心理状態がでるもので、絵がよくなると落款にも自信がみなぎってくる


玉村が最初に描いたのが、下記の「おとこをつくりて」の挿し絵だ。どことなくぎこちなく緊張しているように感じられる。落款も小さな文字でなんと書いてあるのか判読ができない。この自信なさそうで弱々しい落款をよく覚えておいてください。


脱線:あの大リーガーの松阪でさえ、開幕投手では緊張するらしい。





真中が、途中で落款が変わったときの「中入」の挿し絵だ。硬さがなくなり絵にもどことなくゆとりが感じられるような雰囲気に変わっているのがわかる。
そして一番下が、後から2回目に描いた「序の勝」の挿し絵。落款の変化とともに、いや、絵に潤いが出てくるのと足並みをそろえるようにして落款も風格のあるものに変わり、一番下の絵では、線も柔らかく優雅になり、構図にも躍動感があふれ、落款もふくめ見事な一服の絵画になっている。僅か半年の間に、まるで芋虫から蝶々へとメタモルフォーゼでもしたかのよう見事に変貌している。


「序の勝」を描いたのは終戦の年の3月頃ではないかと思われ、空襲警報や硝煙のくすぶる東京中野区でこんなに穏やかに描いている余裕があったのだろうか、と驚きさえ感じる。