昭和初期の装飾文字をコレクション、集成

辻克己『現代図案文字大集成』(浩文社、昭和12年7版、初版=昭和9年1月)は、書体集にもかかわらず編集が面白い。
目次の項目をあげてみると
・特殊図案文字
・いろは図案文字
モノグラム・マーク集
・各流書體と活字體
・著名商品文字
・図案英文字集
・映画演劇広告図案文字
とあり、さまざまな文字を集め分類し、網羅しているところが、資料性の高い労作といってもいい素晴らしい本だ。
中でも「著名商品文字」「映画演劇広告図案文字」は、当時の文字の状況がよく分かり、時代の雰囲気さえ伝わってくる。


山田伸吉のパンフレットで知られる「松竹座」のロゴや山六郎が描いたといわれる「女性」「苦楽」のロゴ、河野鷹思等の表紙で知られる「蝋人形」など親しみのあるロゴが掲載されており、これらの図案装飾文字は当時からオリジナリティあふれる得意な雰囲気で人気があったに違いない。






この本は戦後になってから
辻克己『新篇・増補図案文字資料大成』(大同出版社、昭和28年)として、巻頭に30頁ほど新原稿を加えて、別の出版社から発行されている。大同出版といえば、戦時中に見事な装丁の本を次々に発行した桜井均率いる桜井書店の別の姿ではないかと思うが、確信はない。
戦前の本は昭和14年ころにも増刷されていて、おそらく十数版を数えたに違いなく相当売れた本だと思われる。


戦後版の増補部分を見ると、戦前の文字とはだいぶ雰囲気が変わっているのが分かって面白い。戦前版の方がブームの最前線での発行とあって文字に勢いがあったように思える。