津田青楓装丁『三重吉全作集第三巻子猫』

昨年6月まで、別のブログで津田青楓装丁『三重吉全作集』全十三巻の装丁の話を書きつづけてきだが、コメント欄にスパムメールのアドレスが毎回数百も書き込まれてしまい、9巻まで書いてこのプロバイダーに引っ越してきてしまった。


今日は久しぶりに、全13巻のうちの10冊目のコレクションとなる『三重吉全作集第三巻子猫』(春陽堂)が手に入ったので、ご紹介します。



このシリーズは丁度葉書ほどの大きさで俗に袖珍本と呼ばれる菊半裁版の愛らしいサイズだが、布装角背上製本、函入り。さらに背文字を漱石が揮毫しており、表紙用に青楓が描いた下絵を木版に彫ったのは伊上凡骨という気の入れようだ。


第一巻『瓦』〈大正4年3月))に始まったこの本の装丁に興味を持つに至ったきっかけは、青楓が装丁を手がけたのは第十巻『櫛』〈大正5年3月)までで、残りの3冊は高野正哉に代っていたことを知ったことだ。シリーズものの装丁担当者が途中で代るというのは何かよほど大きな問題があったに違いないと思い、急に興味を持ち出し全巻そろえてみたくなった。


今回入手した第三編『子猫』(大正4年5月)の装丁は、大正4年3月26日の鈴木三重吉から津田青楓に宛てた手紙「第三巻の画を大至急願ひたい。今度は『子猫』だ。シブいものが欲しい。〈出来得べくば)甲斐絹ぐらい使ってもよい。」(津田青楓『寅彦と三重吉』)で、始まった。


大正4年4月24日の手紙には「子猫用表紙落手。大いに面白いが、あの清高な感じは、『子猫』の内容に対して不調和である。」(前掲)と三重吉の容赦の無い厳しい注文が入る。


さらに「それであれはアトの本のどれかへ使ふことにして、今度第四巻用のサラサ模様を第三巻のにしたい。是非さうして下さい。別封にて第三巻御礼十円送る。……乍勝手、第四巻用のサラサ、三巻用として大至急御送りください。植竹(*春陽堂)は一度に三四枚かいてくれと注文した由。彼はその中からいゝものを一枚選るのだと言ってゐた。ゼイタクなことをいふ奴と思ふ。一枚づゝかいてやれよ。これは植竹には秘密也。」(前掲)と、慇懃無礼に雨とムチを使い分ける三重吉の様子が読み取れる。