製本用語「膣背」「男根背?」を学術的に検証

何度も読み返すだろうと思われる本で、栞のない本を読むときは、いつも自分で栞を付けてしまう。ハンズなどで200円くらいでいろいろな色の栞を数十本束ねて売ってるのを使っている。栞の長さは書物の対角線より一つまみ分長くとる。そしていつも2本取り付けるこの作業は、深い考察の時間へと導いてくれる愉悦の一時でもある。



下図(『出版編輯事典上』清光館、昭和9年)にもあるように、上製本の場合は背の部分の作り方で3つの製本様式にわけられる。それぞれ上から順に(1)柔軟性背(フレキシブル・バック) (2)硬背(タイト・バック) (3)膣背(ホロー・バック)と名付けられている。(3)の特徴としては「開きがよく非常に読みやすい」とある。問題なのはこの(3)の膣背だ。



下図の牧経雄『製本ダイジュスト』(印刷学会出版部、昭和53年8刷)では(1)フレキシブル・バック(しなやか背) (2)タイト・バック(かたい背) (3)ホロー・バック(うつろな背)と翻訳されている。



私は(3)を「チツセ」と読むのだと、ず〜っとそう思っていた。そのせいかこの製本名を口にするのにためらいがあった。言わなければならないときはかならず「ホロー・バック」というようにしていた。それが、最近これは「あなぜ」と読むことを知って、よけいに口に出しづらくなった。正式名称としてはあまりにベタな表現だと思いませんか。その特徴もちょっと、ちょっとちょっと、ですよね。これが大学の授業でまことしやかに講義されていたのだから、まだ未成年だった私は、あの保健体育の授業の気まずい静けさのときのように恥ずかしくてたまらなかった記憶がある。


製本現場では職人たちが、その形状から面白おかしくそう呼んでいたのかもしれないが、ほかの二つの名称に比べてこれだけがなぜか唐突で不自然な名前ですよね。


上の製本の図はあまりに下手で、(1)と(3)の違いや特徴が表現されていないが、下の図(『製本ダイジュスト』より)を見る限りでは、(3)「柔軟性背」が「膣背」というなら、(2)の「硬背」はどう見てもやはり「男根背」と呼ぶほうが自然な感じがしないでもない。ちなみに、左右に飛び出した部分は、医学用語では「かさ」とよばれ、昔から「1かさ、2ソリ、3まっくろ、長さ太さは枠の外」などの金言もあるほどで、最も重要な部分とされていますが、製本用語では丸背の最も重要な部分であるのもかかわらず、ただ「みみ」と呼んでいます。マツタケなどの菌類でも「傘」と呼ばれているので、いっそのこと製本でも「かさ」と呼んだらよいのではないかと提案する次第です。

製本の現場は男性社会だったので、本来このように対となるべきものがその形状の空似からだけを特徴としてとらえ、中途半端に興味の赴くままに付けられた名称だったのではないかと推察する。



このような考察に至ったのは、栞を取り付けるときに下図のように本を180度以上開いて、背の部分に開いた穴、ま、言うなれば「膣口」に寒冷紗に貼り付けた栞を挿入するわけだが、これがまた妄想を駆り立てる。確か「アンネナプキンの歴史」という文献資料を紐解いたときに、昔の生理用品は紅茶のティパックを小型にしたようなもので、小指くらいに丸めた綿をガーゼに包んで、後でとり出しやすいように糸を付けたものであった、というようなことが書いてあったのを記憶していたからだ。これは「空似(そらに)現象」とよばれ、「空耳アワー」なるテレビでも似ていることだけを楽しむ夜の人気番組がある。


注:なお、この写真は「あるある大事典」のように、自分の主義主張を認めさせようとして意図的に真実をゆがめて撮影したものではありません。