恩地孝四郎装丁「女性時代」

高円寺の古書市の後、先週見て購入しなかった本が欲しくなり、吉祥寺の古書店にも寄った。店頭に200円で並べられていた『日本文学全集 横光利一集』だが、20~30冊のうちの1冊だから絶対にまだ店頭にあると思っていたが、な、なんと「あれだけがない!」。吉祥寺の古書店を全部廻ったが、さすがに全集を置いている店はなかった。


こんなのを釣りでは「ボウズ」というが、1匹釣れるか釣れないかでは雲泥の差で、疲労感は数倍に感じる。そうはさせじと気力で見て回っているうちに、雑誌が積み上げられている一番上に恩地孝四郎装丁「女性時代」(女性時代社、昭和5年第1巻第1号)が、買ってくださいと言わんばかりに並んでいるのを見つけた。私の前の人が手に取ったが購入しなかったのだろうか。ありがたい。


単なる投稿雑誌かと思って眺めていると、これがなかなかの雑誌で、河井酔茗が発行人で、巻頭の「三番叟」の解説からして、ウンチクがすごい。三番叟の意味のわからない言葉の意味が解明され、それを酔茗の恩師でもある河口慧海師に西蔵(注:西蔵(X醇dz醇Ang)はチベットのうち、アムドやカムを除く、西南部2 分の1程度を占める部分に対する中国語による呼称として成立した、地域概念の用語。)原文で書いてもらったものらしい。



下の隅にある小さなカットには「RRR」のサインがあり、まさかとは思うが、これは武井武雄のサインである。


河井酔茗(1874-1965) 詩人。大阪、堺生まれ。本名、又平。「文庫」派の詩人。平明温雅な詩風で口語自由詩に新分野を開いた。詩集「塔影」「霧」など(goo辞書より)。


ひやひやと霧降る宵の
街の樹は遠のく姿
家と家遥に對ふ


あざやかに青き葉顫ふ
街の灯の疲れし影に
消ゆる人現はるる人


晝見たる文字の象も
色彩もありとや想ふ
すかし見る闇の深きに


轟きは彼方に消えて
大都會もの輕やかに
薄霧の底に沈みぬ


我いのち確かに置けど
浮城は今や千尋
霧の海隠れてゆきぬ


(河井酔茗 霧・霧降る夜)



その他、巻頭口絵が「露西亜浪漫劇場 エ・スミルノワ」。いったいどんなルートをたどって取ってきたのか、私の大好きな装丁の『危険信号』の広告が掲載されているのも驚きだ。表紙、口絵や広告までも徹底してモダンさを追求している。