2006-05-30 造本探検隊109(ニック・バントック『不思議な文通』)

shinju-oonuki2006-06-06

●造本探検隊109……ニック・バントック『不思議な文通』(河出書房新社、1993年2版、定価2500円)を教えてくれたのは、「わたしつくるひと」だ。内容は、絵はがきと本文中に貼り込まれた実物とおんなじ封筒に入った手紙の間で繰りひろげられる孤独な画家と謎の女性との不思議なヴィジュアル小説。いわば大人の絵本だ。

ニック・バントック宣伝キャンペーン主任を自称する「わたしつくるひと」の説明では、絶対にジョセフ・コーネルの影響を受けている、とのことだ。自称コーネル狂いの私は、早速この本を入手。4通の封筒が貼り込まれていて、その中には手紙も入っているのには興奮した。この手紙が、小説の本文なのだから、アメリカ人ながら繊細で嬉しくなるほどに小粋な発想でしゃくだね。
 
●『不思議な文通』は、斎藤昌三のゲテ本に匹敵するかな?
主に戦前に多くのゲテ本を発行した書物展望社の社主・斎藤昌三は、使い古しの番傘や筍の皮、紙型、酒嚢などを表紙の素材として用いた装丁界のダダイストとも言える。丁度、時を同じくしてアメリカではジョセフコーネルがシュールレアリズムやダダイズムの影響を受けた、箱にがらくたを詰め込んだような「コーネルの箱」と呼ばれる作品を発表していた。

共に画材として精算されたものではない素材を使い、過去の常識や慣習を否定するような、あるいは、あざけるような作品を次々と発表した。

写真上は『不思議な文通』表紙、写真下は、封筒が貼り込まれている本文頁。封筒から手紙を取り出しながら読み進むのは、文通を実体験しているような錯覚に陥り、たのしい。この奇をてらった表現はゲテ本と呼ぶに相応しい。