こうした書物の画一化に抗するように、斎藤昌三の書物展望社が雑誌発行とは別に世に問うたのが、限定本刊行だった。その最初の登場が1932年(昭和7年)にでた内田魯庵著、斎藤昌三・柳田泉編『魯庵随筆 紙魚繁昌記』である。……この内田魯庵の書物エッセーのセレクションを彼の出版事業の第一弾とし、酒袋を利用した装丁、見返しには和本の反古を使って、紙魚ちらしの凝った本作りを行ったのである。」



内田魯庵著、斎藤昌三柳田泉編『魯庵随筆 続紙魚繁昌記』(書物展望社昭和9年)、”続紙魚繁昌記”だが、装丁はほぼ”紙魚繁昌記”と同じだ。背の部分の虫食いは後から出来たものではなく、材料の時から開いていた穴だ。


◆『魯庵随筆 紙魚繁昌記』普及版跋より
「装釘に就いては、嚢のは翁の漫談酒樽の書斎からヒントを得て酒袋應用は空前の賞讃を得たが、題名に因んで今回も奮い蠧魚蝕ひ本を集めて表裝に利用して見た。從って前回同様一部も同一の表裝はないことになる題箋に銀色を配したのも、この表装を活かす方便に蟲魚に因んだ色を選んだので、或は澁過ぎたかも知れないが、本書には相應はしいかとも思ふ。見返しは翁の多くの印譜中から選んで案配して見たが、この方面に於ける翁の趣味の一端を窺ひえらるれば幸ひである。」



斎藤昌三柳田泉編『魯庵随筆 続紙魚繁昌記』普及版(書物展望社昭和7年



斎藤昌三柳田泉編『魯庵随筆 続紙魚繁昌記』普及版見返(書物展望社昭和7年


◆『魯庵随筆 續紙魚繁昌記』跋より
「装釘に就いては、今度は息厳君を煩はす手筈にしていたが、時間に無關心な畫家のことでとんとアテにならず、それに前者は僅々五百部絶版で、今以て當時の装釘本を入手出来ずに惜しまれてゐたので、その方面の讀者の爲めに再び酒嚢を利用することにしたが、一方前者の愛蔵家には前後を揃へての蔵架にも便ならしめたものである。これらの材料は再び伏見の酒造家増田信一君の好意に任せた。次に見返しは、『當世作者懺悔』を連載した『日本之少年」誌上に文藝滑稽欄があって、そこに挿絵とされたものがどうやら翁の好み、若しくは翁の關係あるもののやうに思惟されたので、翁の趣味の一端を生かす方便に應用して見た。」



「大量複製の時代にあえて 希少価値のものを作ることで対抗するこうした限定出版は、”小雨荘書物随筆集”として出た自著『書痴の散歩』ではさらに廃物利用を徹底して、古い番傘を外装に用いるまでいたる。やはり読書家である柳田国男はこれを評して”下手(げて)装本”と呼んだらしいが、齋藤はその評言をかえって喜んだ。その後も書物展望社としてすぐれた書物の刊行に励む一方、特異な限定本を作りつづけ、みずから『ゲテ装本の話』(1943年)と題したエッセー集まで出している」(前掲『『メディア社会の旗手たち』)


『ゲテ装本の話』(1943年)はだいぶ前から探しているが、なかなか見つからず、写真の齋藤昌三『げて雑誌の話』(青園荘、昭和19年11月28日)は、古書「玉晴」さんが、商品にならないからといって、 くれたもの。



齋藤昌三『げて雑誌の話』(青園荘、昭和19年11月28日)内藤政勝:造本


■11月にJR中央線日野駅前にある実践女子学園生涯学習センターで「美しい本の話」と題する講座を3回に渡って開催予定。毎回たくさんの本をもっていきますので、実物を手に取ってご覧下さい。

・場所=〒191-0061東京都日野市大坂上1-33-1(JR中央線日野駅前)
・受講料=3,150円
・日 程=11月2日、11月16日、11月30日(いずれも10:30〜12:00)
・内 容=1.洋装本の伝来と装丁の始まり
      ─橋口五葉の漱石本とアールヌーボー
    2.幾何学模様の装丁は今でも斬新
      ─恩地考四郎の前衛美術装丁─
     3.廃物を利用した豪華な装丁
      ─番傘などを使った斎藤昌三のエコ装丁─
・申込・問合せ=TEL.042-589-1212 FAX.042-589-1211
        (日・祝日は休館)
        フリーダイヤル=0120-511-880(10:00〜17:00)
        HP=https://www.syogai.jissen.ac.jp