紙魚が繁昌しない布?

 
「所が此の嚢たるや、永年左黨の爲に御奉公した澁抜けのした嚢だけに、相當名譽の負傷もしてゐるし、澁の濃淡もあって、人によっては澁過ると評し、却て裏側の興味を喜ぶ者も出來たので、一二冊限りの製本でないからと兩面を適宜に使用して見ることにした。この袋は兎に角多年澁を塗っては搾った布だけに強靱の度に於ては申分なき上、如何なる紙魚の襲來にも不死身といふ保險付き、これでは題名に反して蠧魚には強敵である。」と、齋藤節はまだまだ続くが、長くなり過ぎたので今夜はこの辺で。
 
書影は、表紙に酒嚢を使った『魯庵随筆 續紙魚繁昌記』(書物展望社昭和9年)。裏表紙の蔵書印は「うちだ」と読めるので、魯庵の使用していた蔵書印をあしらったようだ。