吉田謙吉の装丁本?

川端康成『浅草紅團』(先進社、昭和5年)や金子洋文『飛ぶ唄』(平凡社昭和4年)などのモダンな装丁で知られる吉田謙吉。謙吉は「謙」「Ken」(写真右)などのサインを使う。




「K.YOSHIDA」のサインがあるトルストイ『ハイネ』(三省堂昭和6年)や「「K.Yo」のサインがある米川正夫『ペートル』(三省堂昭和7年)も当然、吉田謙吉の装丁本だと思って収集していた。

 ところが、徳田秋声『心の勝利』(砂小屋書房、昭和15年)読んでいたら、挿絵のサインが「K.Y」と記されているのに気がつき、この挿絵も吉田謙吉か、と思いながら挿絵画家の名前を探してみたら、なんと「装幀挿画 吉田貫三郎」と記されているではないか。



 となると、吉田謙吉の装幀本だと思っていた『ハイネ』や『ペートル』も吉田貫三郎の装幀なのか? そう思い、活字での装幀家名の記載を探したがどこにも見つからなかった。


 手元にある吉田謙吉の装幀本には、川端康成伊豆の踊子』(金星堂、昭和2年)には「Ken」、川端康成『感情装飾』(金星堂、大正15年)には「K」、阿部磯雄『次の一手』(春陽堂昭和5年)には「Ken」、貴司山治『ゴー・ストップ』(中央公論社昭和5年)には「Ken」と、ほとんどが姓の「吉田、YOSHIDA」をサインに使うことはなく、名の「謙、Ken」が使われている。



 このことから今まで吉田謙吉の装幀本だと思っていた『ハイネ』、『ペートル』は、吉田貫三郎の装幀本なのだろうか。