井上毅:挿絵、『小波お伽全集第六巻長話篇』(千里閣蔵版、昭和4年9月)の挿絵22点を紹介します。
多色刷りの挿絵にはパラフィンが付いているなど丁寧な本造りをしているだけあって、奥付にはていねいに「出版関係者一覧」があります。こんな本はあまり見かけません。挿絵画家をさがしてみますと「挿画」として、室野琢磨、井上毅、金子士郎の3名の名前が記されています。しかし、挿絵にサインが記されているのは、井上毅だけで、他の二人のサインは見つかりませんでした。サインがない挿し絵が数点ありましたが、これらの挿し絵を描いたのが、室野と金子なのだとおもいます。
この本には、「新八犬伝」「お伽太閤記」「こがね丸」「お伽十二支」「珍竹斎物語」「黄島白島」「隣の鬼」「大勝魔人」「姫の小舟」10話がB5判245ページに収められています。
井上毅(いのいえ・たけし)→井上富峰
「井上富峰(いのうえ・ふほう) 未来派美術協会の後藤忠光が主宰する「青美社」の同人であり、1921 年 4 月創刊の版画と詩の雑誌『青美』に、象徴主義、表現主義に感化された《裸体》《習作》《永遠に》《悩ましき夜》の 4 点の木版画を寄せた。その後『青美』を合併した文芸雑誌『曙光』3 号(1922 年 10 月)に、井上毅という人物による表現主義的作風の《新しき女》が口絵に図版掲載されており、同一人物と推定できる。
また井上毅は、後藤忠光が出品した 1922 年 2 月の日本創作版画協会第 4 回展にも木版画《影》を出品している。この後の消息は不明。【文献】『町田市立国際版画美術館紀要』第 3 号(1999)/『大正期新興美術資料集成』国書刊行会 2006) (滝沢)」(『版画家名覧』(版画堂のホームページ)より)