叶わなかった桜井均の文芸出版の夢

昨年11月に金沢・徳田秋声記念館で講演したあとに執筆の依頼を受け、徳田秋声記念館が刊行する「夢香山」(平成26年3月)巻頭2頁に寄稿した。
 今では「赤本屋」ということばはあまり聞かなくなったが、戦時中に、文芸出版を目指し桜井書店を創設し、すばらしい造本の立派な本を刊行していたが、赤本屋出身ということで、長続きせず大成しなかった。
 文芸出版では儲からないということを覚悟しての出帆で、もう一つの出版社・大同出版を同時に経営し、こちらでは、いわゆる赤本屋としての出版を通信販売という流通を通さない出版で大もうけをし、その売り上げを桜井書店に回してまで成功させたかった経営だった。
 それでも、「赤本屋出身」という出自が邪魔をして桜井均の夢は容易には実現できなかった。そんな桜井書店から徳田秋声の本が2点、多色刷木版画が函と表紙に使われた豪華な装丁で刊行されていた。


「夢香山」(徳田秋声記念館、平成26年3月31日)