『大東京繁昌記 下町編』(平凡社、1988年)が素晴らしい。芥川龍之介、泉鏡花、北原白秋、吉井勇、久保田万太郎、田山花袋、岸田劉生と、執筆陣も豪華だが、挿絵画家も小穴隆一、鏑木清方、山本鼎、木村荘八、小村雪岱、堀進二、岸田劉生と負けてはいない。挿絵は100点弱程挿入されており、これを眺めているだけでも充分に楽しめる。
この本は、東京日々新聞に昭和2年3月15日から191回連載された作家たちの東京見聞録で、『大東京繁昌記下町篇』(春秋社、昭和3年)として刊行されたものの復刻版だ。今ではこんな豪華な顔ぶれの本は作れないだろう。
昭和2年は関東大震災から4年目で、円本全集が爆発的に売れ、作家の生活がやっと安定し始めるころだ。白秋が「復興と創造と、東京は今や第二の陣痛に苦しみつゝある。この大川風景に見る亜鉛、煤煙、塵埃、鉄鉄鉄の鬱悶と生気と、また銀灰の輝きと、……架橋だ、開鑿だ、地下鉄道だ、駒形橋は完成されてもまだ通行は開かれぬ」と、新しい都市の誕生に目を見張る。
鏑木清方:画、泉鏡花「深川浅景」(『大東京繁昌記』下町篇』、東京日日新聞、昭和2年)