中川一政:画『美しい季節』のすかんぽの絵は誰でも描けそうだが

 スカンポ(酸模)はスイバ(酸葉)ともいう。いずれも漢字を見ただけでちょっと酸味のある植物であることがわかる。子どもの頃に繊維質の茎の部分をしゃぶって酸っぱさを楽しんだ。そんな時はきまって、北原白秋作詞・山田耕筰作曲「酸模(すかんぽ)の咲く頃」を♪土手のすかんぽ、ジャワ更紗。昼は螢が、ねんねする……すかんぽ、すかんぽ、川のふち。夏が來た、來た。ド、レ、ミ、ファ、ソ〜♪とみんなで合唱していた。
http://www.dailymotion.com/video/xrfvoo_yyyyyyyy_music#.UZ1NDoU3BDQ
で歌を聴く事ができる。


 中川一政:画/著『美しい季節』(桜井書店、昭和18年)のすかんぽの絵は誰にでも描けそうだが、やってみるとそう簡単には行かない達人枝であることがわかる。

中川一政:画/著『美しい季節』(桜井書店、昭和18年


昭和16年6月出版用紙配給割当規定施行により、出版事業者が事前に提出した出版企画届を日本出版文化協会が査定をして用紙を配給する制度が確立し、印刷用紙の入手が困難になった。そんな中、桜井書店主・桜井均は苦心の末、統制品ではない和紙を全国から買い集め出版統制に対応した。『美しい季節』もそんな和紙を使った本で、文中に「病人は死にそうだから医者にかゝるのだが、本は生まれる為に装丁家の手にかゝるのである。……装幀の失敗は自分だけでは済まない。」と、中川の装幀にかける意気込みを感じとる事ができる。
 桜井が苦心してやっとの思いで集めた和紙だが、八王子にあった倉庫ごと発売間近の本までも戦災で焼かれてしまう。