(1月3日の続き)「一寸、奇異な印象としては、新潮社から出した久保田万太郎の短編集の中で、鴛鴦に薄氷ナドを配した圖を作りましたら著者から鳥類が絶對に嫌ひだとの事で、箱庭に用ひる玩具の堂宮や、樹木、旅人、瀧、などを散らした模様を更紗の如くにした、下町のセンチな思ひ出の意匠に改めて喜んで貰った様な記憶もありました。書肆の名の記憶では、大倉廣文堂、今津如山堂、金尾文淵堂、堀野文禄堂、春陽堂、博文館、精美堂(共同印刷前身)新潮社、星文堂、小川誠文堂、三省堂、冨山房、有楽社等で比較するに現存の店よりは概して失った店


名取春仙:装丁、田山花袋『通盛の妻』(金星堂、大正8年


文中に「田山花袋氏『平通盛』(京文堂?)等でせう」とあるのは田山花袋『通盛の妻』(金星堂、大正8年)の事ではないだろうか。


また「新潮社から出した久保田万太郎の短編集の中で……箱庭に用ひる玩具の堂宮や、樹木、旅人、瀧、などを散らした模様を更紗の如くにした」とあり、書名がないが、久保万太郎『東京夜話』(新潮社、大正7年5月)のこととおもわれる。久保万太郎「四月の日記」には、「名取春仙君を煩はした『東京夜話』の表紙をみる。箱庭の道具をいろいろとり合わした千代紙風のもの、大へんやさしい感じのするものができた。」と記されている。



名取春仙:装丁、久保万太郎『東京夜話』(新潮社、大正7年5月)