造本探検隊115(円本の前身?『小学童話読本』)

●本を整理していたら、菊池寛編『小学童話読本』(興文社、大正15年3月15版)(写真上)が出てきた。初版は大正14年12月に発行されているから、わずか3ヶ月ほどの間に15刷もするほど売れたようだ。
この本は全8巻で各定価一円。ネットで調べたら、5000〜7000円で販売されている。ちなみに私の本には200円という古書価の札がついている。やった!

●この本とよく似た本が、昭和初期の円本全集の中でも最も凄惨な争いをした『小学生全集』(興文社、文藝春秋社)(写真下・武井武雄装丁、『ジャングルブック』)で、こちらも菊池寛が編集をやっている。8巻では不完全燃焼だったのだろうか、菊池は北原白秋兄弟を相手に歴史の残る大出版合戦を演じた。

 
●『日本児童文庫』(アルス)が先に発売したのを、類似の企画を出した菊池寛を相手取っての大論争を巻き起こし、悲惨な結果に終った空しい出版史でもある。

●この『小学生全集』は円本全集の中でも、最も好きな全集で、全88巻を揃えて持っているのはこの全集だけだ。1冊毎にデザインが違い、当時の有名な挿絵家や装丁家が勢ぞろいしている。本文中の挿絵も夢二や武井武雄岩田専太郎樺島勝一村山知義などなどすご〜いメンバーが勢ぞろいしている。

この大好きな本に前身とも言うべき全集があるとは知らなかった。手元にある本の装丁・挿絵は、記載はないが「Ryo」のサインがあるので、たぶん田中良だろう。思い掛けない貴重な資料が出てきた者だ、と武者震いした。

●7月13日に某美大で2コマの講演会があり、この話も使えるように、よく調べて見ようと思っている。

円本ブームとは大正15年の暮から昭和4〜5年頃までの短期間のうちに数百点もの全集が発売され、その殆どが1冊1円であったことから円本と呼ばれている。