大木惇夫『神々のあけぼの』(時代社、昭和19年4月)

shinju-oonuki2006-03-31

この本が出た昭和19年はどんな戦況だったのだろうか。18年、日本はマリアナ沖海戦で空母3隻と艦載機400機を喪失し、太平洋における制空権を完全に失い、昭和19年3月には、学徒勤労動員の通年実施を閣議決定。さらに19年7月には「難攻不落の要塞」と言われたサイパン島も陥落し、絶対国防圏は崩壊しつつあった。19年12月のレイテ戦の敗北により、本土決戦の準備が本格化したそんな時である。
 
大木惇夫『神々のあけぼの』(時代社、昭和19年4月初版)が発行されたときは、いよいよ本土決戦が始まろうというときで、敗戦が濃厚になってきた時期でもある。そんな時期にたくさんの挿絵が入った詩集の出版などが、常識的には認められる事はありえない。この詩集は、日本出版会承認い四五〇〇六〇 10,000部とあり、配給元は日本出版配給株式会社とある。
 
「あとがき」には「國家的要請に應へたものであり、その多くは新聞紙上に載せたものであって、……大東亜戦争讚頌詩集『神々のあけぼの』としてまとめた」ものと書かれてある。
 
この詩集の装幀は恩地孝四郎であり、本文中にも恩地の17点の版画が掲載されている。写真左は「八紘爲宇頌歌」に添えられた版画。写真右は「七國旗翻る日に」に添えられたものである。「恩地孝四郎装幀作品目録」(『総本の使命』)の昭和19年には4点しか記載がなく、もちろんこの本の記載はないので、新たに5点目を加える事になった。恩地にとっては、記憶の底にそっとしまっておきたい本だったのかもしれない。