【101冊の挿絵のある本(26)… 小村雪岱:挿絵『おせん』の挿絵を紹介します。】

【101冊の挿絵のある本(26)…  小村雪岱:挿絵、国枝完二『おせん』(三及社、昭和21年)の挿絵を紹介します。】

 この本には8点の挿絵が掲載されています。ここでは8点全てと、『芸術生活』(芸術生活社、昭和49年8月)に掲載されていた挿絵を追加して紹介します。これぞ、雪岱調と言われる画風が確立し、雪岱らしさが随所にうかがえます。

国枝完二『おせん』初出:『東京日日新聞』昭和8(1933)年9月〜12月連載。接待が挿絵を描き人気と評価を不動のものとした。

 昭和21年に発行されたため、本文は和紙を使っており、裏写りするなど印刷適性が悪く、挿絵があまりきれいに再現されていません。おまけに、戦争の影響で印刷技術者が不足していたようで、挿絵が矩形に切られず挿絵の一部が切れていたりと、書籍としてはかなり不完全なものですが、それも当時の時代の物証としての価値があると思っています。

 

小村雪岱『おせん』
 「小村雪岱とコンビを組んだ邦枝完二は、雪岱のさしえについて、自分の書いた戯曲を名人上手といわれる役者に上演してもらったときの心境だと語っている。
 雪岱が新聞小説の挿絵を手がけるのは、里見弴の『多情仏心』(大正12年、時々新報)からである。そのころはまだ資生堂に勤務していたため、十時ころ出社して夕刻までに締切りのさしえを一枚描き上げ、帰りにそれを新聞社にとどけるといった毎日だったらしい。ただし画風はその後の白と黒のみごとな線描とはことなり、コンテで描いた柔らかいタッチのものだったという。もっとも資生堂では、ビアズレーの画集を買い求め、すでにデザインの研究に力を入れていたそうだから、そのころから後年の雪岱長の画風が次第に形成されていったものと思われる。
 雪岱は明治二十年に川越で生まれた。本名は泰助。17歳のときに荒木寛畝の塾生となり、基礎を学んだ後、上の美校の日本画家に進み、下村観山に師事した。卒業後しばらく国華社につとめて古画の模写に従った。その後久保猪之吉の紹介で泉強化を知り、強化の著書の想定を手がけて一部の注目をひいた。資生堂には大正のなかばころからあ震災の年まで勤務し、意匠部でデザイナーとして、いわゆる資生堂スタイルの基礎を作った。
草森紳一は雪岱の絵の特色がそのデザイン性にあることを強調しているが、確かに資生堂での数年間は、雪岱のその後を方向づけたといってもよかろう。新聞さしえにつづいて、舞台装置にも進出し、多くの舞台を手がけた。
 鏑木清方は雪岱の絵がもつ情にふれ、人間の情だけでなく、しめやかに降る雨、千草にすだく虫の音、黒板塀や建仁寺垣にまで、なよやかな美の分身がこめられていると評したものだ。雪岱の描く美女は一見春信を思わせる。しかし春信にはない大胆な視角が感じられビアズレーや明治期の石版画をろ過した近代的処理がみられる。
 その画風が多くの人々に印象づけられるのは、邦枝完二の世話ものふうな作品のさしえを担当するようになってからだ。昭和七年に大毎、東日誌上仁連載された『江戸役者』を皮切りに、『おせん』『お傳地獄』『喧嘩鳶』などを手がけ、名コンビをうたわれた。江戸役者の芸妓お雪、「おせん』の笠森お仙、『お傳地獄』の高橋おでんなどは白眉である。」(「小村雪岱『おせん』、尾崎秀樹『挿絵50年』平凡社、1987年5月)より。

 

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小村雪岱:表紙装画、國枝完二『おせん』(三及社、昭和21年)

 

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小村雪岱:挿絵、國枝完二『おせん』(三及社、昭和21年)

 

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小村雪岱:挿絵、國枝完二『おせん』(三及社、昭和21年)

 

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小村雪岱:挿絵、國枝完二『おせん』(三及社、昭和21年)

 

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小村雪岱:挿絵、國枝完二『おせん』(三及社、昭和21年)

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小村雪岱:挿絵、國枝完二『おせん』(三及社、昭和21年)

 

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小村雪岱:挿絵、國枝完二『おせん』(三及社、昭和21年)

 

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小村雪岱:挿絵、國枝完二『おせん』(三及社、昭和21年)

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小村雪岱:挿絵、國枝完二『おせん』(三及社、昭和21年)

 

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小村雪岱:挿絵、國枝完二『おせん』(『芸術生活』、昭和49年8月

 

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小村雪岱:挿絵、國枝完二『おせん』

 

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小村雪岱:挿絵、國枝完二『おせん』(『芸術生活』、昭和49年8月)

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小村雪岱:挿絵、國枝完二『おせん』(『芸術生活』、昭和49年8月

 

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小村雪岱:挿絵、國枝完二『おせん』(『芸術生活』、昭和49年8月)

 

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小村雪岱:挿絵、國枝完二『おせん』(『芸術生活』、昭和49年8月)