【101冊の挿絵のある本(27)… 小村雪岱:挿絵、邦枝完二『お傳地獄』(『名作挿画全集』平凡社、昭和10年6月)の挿絵を紹介します。】
この本には8点の挿絵が掲載されています。ここでは『名作挿絵全集』(平凡社、1980年)に掲載されている挿絵も含め29点を紹介します。これぞ、雪岱調と言われる画風が確立し、雪岱らしさが随所にうかがえます。
国枝完二『お傳地獄』初出:『読売新聞』昭和9年(1934)9月21日〜翌年5月11日、181回。
「この挿絵を描いた小村雪岱とはウマが合い、『あれだけわたしの作品を理解して、江戸の女を描いてくれる人は、今後二人と出るまいと思っている」と邦枝は書いている。事実、二人のコンビで、『おせん』『喧嘩鳶』など名作を残しており、この挿絵も傑作の一つとされた。毒婦のイメージが定着している高橋お伝も、実像は貞女だったと言われ、この作品は、その人間性の回復をはかることで、お伝に新しい人間像を賦与したと言える。この続編の『お傳情死』は、昭和10年9月〜11年『現代』に連載され、お伝の刑死で終る。江戸趣味に非ざれば文学に非ず、とした邦枝が、『歌麿』によって確立した方向で、お伝の妖艶な魅力と官能を事件の中に浮彫したところに、ポイントがある。」(岡治良「お傳地獄」、『名作挿絵全集』第5巻)より。
「高橋お伝といふやうな肌合ひの女には興味があるのですが、いままで描いたことはありません。伝法で毒婦型の妖艶な女を描くといふことは楽しみです。それに時代にも興味があります。チョン髷もあれば、ザン切りもあるといふ風俗的にみても、明治初年の最も過渡期にあたる時です。お伝の行動した場所も江戸や横浜を背景にしてゐるので面白味があります。風俗的な資料も蒐めてゐますが、とにかく精一杯に描いて江湖の御愛願を得たいと思ってゐます。」(『読売新聞』夕刊昭和9年9月9日)。