大貫伸樹『装丁探索』とよく似た装丁の裏事情

挿絵画家・木村荘八の話を書いていたら、つい横道にそれてしまい、遊びにはまってしまった。写真右の木村荘八:画、吉川英治『坂東侠客陣』(講談社、大正15年)を見つめているうちに、写真中央の堂昌一:画、笹沢佐保『平手造酒外伝 今朝もまた夢』(読売新聞社、1986年)も同じ話であることを思いだし並べてみた。


 こうもタッチが違うとどちらがいい挿絵なのかを判断困難になる。更に伊藤彦造も同じタイトルで描いていたのを思いだし写真左の伊藤彦造:画、吉川英治「坂東侠客陣」(講談社、大正15年)を探しだしてきた。
 同じテーマでの3枚の絵を並べるとただただ壮観で、満足していまい思考停止状態です。堂昌一は今月発売予定の「粋美挿画」3号特集に、木村荘八は次号特集に書く予定。伊藤彦造も第2特集候補で資料収集中でしたので、つい横道にそれてしまいました。遊んでばかりで執筆は遅々として進まない。


横道は楽しいので、ついつい留まるところを知らなくなる。
 画廊で売れた絵に、もう一人この絵を欲しいという人があらわれ、同じ絵を2枚描くことになる、が、2枚目はなぜか1枚目よりいい絵にはならないという。
 前掲したものだが、写真左の堂昌一:画、笹沢佐保『平手造酒外伝 今朝もまた夢』(読売新聞社、1986年)にもそんななことがあったのではなかろうか。
 写真右の堂昌一:画「玉川勝太郎天保水滸伝」レコジャケ部分、King、1968年)とよく似た絵だが、「このジャケットの絵が気に入っているので、同じように描いて…」といわれると、断りきれず描くこともある。挿絵画家としても18年も前に描いたものを「気に入っているので…」と持ってこられるとまんざらでもない気持ちで、クリエイティブではないが、少し手を加えれば、まいいか、と心は千々に乱れる…に違いない。でも、やっぱり私は右の古い方がいいな!
 こんなことに興味を持ち始めると、ますます横道にそれてしまう。


千葉県香取郡の笹川一家と、神奈川県横須賀市の飯岡一家との勢力争の話が「天保水滸伝」で、笹川一家の剣客が平手造酒や勢力富五郎のようだ。つまり、タイトルは違うが、「平手造酒外伝 今朝もまた夢」も、どちらも同じ人物平手造酒を描いたということか。

画像は、笹川繁蔵と飯岡助五郎、二人の侠客の勢力争い大利根川原の決闘を描いた芳虎画「於下総国笠河原競力井岡豪傑等大闘争図」(1864年)。



そう言う私も、堂昌一さんと同じような体験を3回も繰り返された。
手前みそだが、自著自装の大貫伸樹:装丁・オブジェ制作、大貫伸樹『装丁探索』(平凡社、2003年)四六判は、造本装幀コンクールで日本書籍出版協会理事長賞受賞、ゲスナー賞:本の本部門銀賞を受賞した。


数年後に、文庫判上製本(ハードカバー)の執筆と装丁依頼が舞い込んだ。その時に、前作『装丁探索』と同じような装丁でお願いします、といわれ、問題が起きそうなので、平凡社に一筆入れ、よく似た本を作ることの許しを乞うた。快諾をいただき生まれたのが、大貫伸樹:装丁・オブジェ制作、大貫伸樹『製本探索』(印刷学界出版部、2005年)だ。


そんなことがあったのも忘れたころに、今度は、『製本探索』と同じ造本装丁でお願いします、との装丁依頼が舞込んだ。今度は印刷学界出版部に許しを乞うことになったのだが、「本来なら許されないことだが……」と、立場が代わったら、上から目線で怒鳴られた。こうして生まれたのが、大貫伸樹:装丁・オブジェ制作、森川宗弘『鞦韆(ブランコ)の詩』(みやび出版、2010年)だ。



 このように、デザイナーの意志に反して世に出た装丁があるように、堂昌一の挿絵にも事情があったのだろう。