ネットで注文した名取春仙『デモ画集』(如山堂、明治43年10月10日再発行版)と尾崎紅葉『縮刷金色夜叉』(春葉堂、大正9年5月15日45版印刷)が届いた。『デモ画集』には夏目漱石「三四郎」、森田草平「煤煙」、島崎藤村「春」等の挿絵が掲載されている。『縮刷金色夜叉』には名取春仙を始め8人の画家が描いた8葉の木版画が挿入されている。



名取春仙『デモ画集』(如山堂、明治43年10月10日再発行版)


名取春仙:画、島崎藤村「春」(『デモ画集』、如山堂、明治43年10月10日再発行版)
 巻末に、入社早々の春仙に画家としての心得を説いた薮野椋十の注文「跋」が掲載されており、春仙の挿絵に少なからぬ影響を与えたことがうかがわれる。
「跋 春僊氏が始めて入社の折拙者は左の絛々を註文に及びたり。
 一 筆で描かず脚で描くこと
 一 腕で描かず眼で描くこと
 一 机の上で描かず腹の中で描くこと
 一 滅多に上手に爲るまじき事
 一 滅多に大家に爲るまじき事
 一 滅多に銭を儲くまじき事
 一 可相成寡交なるべき事
 一 可相成野暮たるべき事
 一 可相成間伐たるべき事
其以来已に三年を経て茲に此の畫集を看る。なかなかおもしろいには相違なけれども、皆氣が利いて居るのが聊か以て残念にも存ぜらるゝ樣なり。
明治四十三年三月 東京朝日新聞編集局に於て 薮野椋十」



尾崎紅葉『縮刷金色夜叉』(春葉堂、大正9年5月15日45版印刷)


名取春仙:画、尾崎紅葉『縮刷金色夜叉』(春葉堂、大正9年5月15日45版印刷)、背景のグレーの部分に版木の木目が刷込まれているのが、紙に描いた挿絵を印刷したのとは違って深みを感じさせる味わいがある。
 この落款(サイン)がなかなか判読できず、もう1枚の「百合」と書かれた落款とともにどちらが春仙の絵なのか分からなかった。分かってしまえばどうってことはないのだが、「名取春仙印譜」(『名取春仙』櫛形町立春仙美術館、平成14年)にたくさんの春仙の落款が掲載されており、春仙の「春」を四角の中に「十十十」「一」を描くことで図案化したことが判明。



「名鳥春仙印譜」(『名取春仙』櫛形町立春仙美術館、平成14年)


最後まで落款の解明が出来ないのは、池田蕉園の落款がなぜ「百合」なのかだ。8葉のうちこの1枚だけが判読出来なかったので、池田のサインであることは間違いない。描かれているのは「鴫沢 宮」。

池田蕉園:画、「鴫沢 宮」(尾崎紅葉『縮刷金色夜叉春陽堂大正9年5月15日45版印刷)