氏のデザインを語る人は、ただちに、欧州装飾美術の新傾向であったアール・ヌーボー様式を引き合いに出すのであるが、そしてまたその様式の洗礼を受けたことはたしかとしても、必ずしもその追従者でなかった。氏のデコラチーブ・トリートメント(単化手法)の根底には、実に克明な写生が横たわっているのである。風景でも、植物でも、氏のその表現がきわめて健康くずれないのは、この写生精神にあろう。大正9年から11年(1920〜22)にわたって出版された『非水百花譜』二十輯を展げてみても、このことが十分うなずけるのである。非水図譜は、氏のリリックなオリジナリティがそうさせる自然な表現であったといえようか」(『概観・日本の広告美術』)と、まさに非水の神髄をとらえたとも言うべきみごとな批評をのこしている。
この三越のポスターについてもよく見れば、細部にアール・ヌーボーを思わせる文様が配されているが、全体の印象としては、東洋的な印象を受ける。