「さしゑ」紙上展は毎回、掲載される挿絵画家の選択が素晴らしい。何のしがらみもなく、毎号その時期の最も旬な画家たちが選ばれている。



風間完:画「原色の街」(「さしゑ4」挿美会、昭和31年6月)
吉行淳之介氏の作品、原色の街のさしえです。去年の暮れ鳩の町えスケッチに行って三四枚描いてきた内の一枚です。吉行君とは永いつきあいですから、彼の気脈というようなものを私はよく感じとることができると思っています。ですから、かえってアトリエでつくらない生のスケッチの方を彼の作品のさしえとしてはっぴょうしてみました。」


沢田重隆:画「無題」(「さしゑ4」挿美会、昭和31年6月)「夕暮れの、慌しい人波が引いてしまう頃になると、銀座は急になまめいてくる。そゞろ歩きの人々は、分に応じた胸算用で、秘かなアバンチュールにかかろうとする生き生きした表情ばかり。人工過剰な光と造型のこの街にも、こんな生新な群像が泳ぐ一刻もある。」



松野一夫:画「美女と●(女へんに委)」(「さしゑ4」挿美会、昭和31年6月)「私は上手に描こうと思った事がない。いつも自由にかきたいと心ざして居るのだが、それがなかなか出来かねる技である。この下図はもう少しゼスチュアを踊らせない方がよいとおもったが、あまり気どり過ぎても挿画になりかねるので……。」



志村立美:画「新ばしの印象」(「さしゑ4」挿美会、昭和31年6月)「新橋辺りでよく見かける図である、実際にスケッチした事は一度もない。この女性方(?)に限り背があくまで高く筋張ったのが多いから妙である。



岡本爽太:画「無題」(「さしゑ4」挿美会、昭和31年6月)
「『かぐや姫』を描くつもりで始めたのですが、途中で気が変わって、漠然と天女の様なものにしてしまった。最初から之と云った意図も持たなかったが、色っぽい女体は描きたかった。従ってこの絵には題はない。」



今村恒美:画「やつこ歌舞伎」(「さしゑ4」挿美会、昭和31年6月)「いつも追はれてばかり居て、本当に絵がかけない。こんな時こそと思ったが結局むし返しの絵になってしまう。頭がいたい。」



伊勢田邦彦:画「ガラスの花」(「さしゑ4」挿美会、昭和31年6月)「現在、婦人生活に連載中の吉屋信子氏作『ガラスの花』の一場面をもう一度かいてみた。主人公の美容師が、あたりをうかがいながら指輪箱を開けるところである。特にこれといったねらいわないが、がっちりかき直し、あわよくば新しいタッチを得たいと思って頑張ってみたが、たいして変わりばえのしないものになってしまった。」



成瀬一富:画「女」(「さしゑ4」挿美会、昭和31年6月)
「いつも生のスケッチの味を生かした挿絵を描きたいと思つてゐるが印刷の条件で十分に目的が達せられない場合が多い。これはそのような不安をもたないで描いてみた。」