明治10年代後半になると、それまではスミ一色の簡素な印刷であった表紙に、カラフルな極彩色の絵が付されるようになってきた。この時代における定価壱円五十銭から弐円五十銭は決して安いものではなく、にもかかわらずカラフルな表紙にして発行するというのは、それでも売れるからであり、そのことはボール表紙本の隆盛期を迎えた証しとも言えるのではないだろうか。ちなみに同時期に発売されていた並製本の『浮雲』は五十銭、『夏木立』は三十銭である。


週刊朝日編『値段の風俗史』(朝日新聞社、昭和56年)によると、明治20年のもりそばが一銭だから、もりそば150杯〜250杯分とボール表紙本が等価ということになる。明治10年の汁粉は三銭。明治14年の上等酒(1.8リットル)は十一銭だ。格安感のある並製本の『夏木立』でも特級酒一升瓶3本分弱で、こうして見てくると本はかなり高価な商品ということが分る。



小三金五郎『仮名文章娘節用』(文事堂、明治19年



柳葉亭繁彦『水戸黄門仁徳録』(上田屋、明治20年



曲亭馬琴『為朝實伝椿説弓張月』(銀花堂、明治20年



菅の屋戯述『慶安太平記』(競争屋、明治23年



一筆庵主人『党派の軋轢』(金泉堂、明治23年



大塩平八郎実記』(競争屋、明治24年