造本探検隊117(有元利夫装画『海岸列車』)

有元利夫の彫刻をモチーフにした装丁
毎日新聞社から発行された、宮本輝『海岸列車』上・下巻(毎日新聞社、1989年)は有元利夫の彫刻作品を撮影して(撮影」・安齋吉三郎)装丁のモチーフとしている(装丁・菊池信義)。宮本輝の意向が強く働いているのだろうか、角川書店から発売された宮本輝『海辺の扉』上・下巻(角川書店、平成3年初版)の時も、著者は勿論宮本輝だが、装丁家・菊池信義、装画・有元利夫のトリオは、出版社が変わっても、しっかりとスクラムを組んで1冊の本を作り上げている。

 
以前に紹介した宮本輝青が散る』(文藝春秋、1994年28版)もこの3人がスクラムを組んでおり、まるで、そこのけ、そこのけ、おいらが通る!とでも主張しているかのような傲慢さだ。お蔭で、私たち有元ファンは有元利夫の作品を装丁で気軽に身近に楽しめるのだから、文句を言っては罰があたるというもんだ。

宮本輝『海辺の扉』上巻の白馬にまたがっている人物が、出版界を闊歩する宮本輝様に見えてきてしまった。手綱で操られながら息絶え絶えで走っているのは装丁家・菊池信義? と例えて見ると、宮本輝がこの絵に執着する意図が見えてくる、ナ~ンていうのは、穿った味方で、そのようなことはないと断言する。

そんな穿った見方をしてしまうのは、出版社が違っても、一つのシリーズの続きであるような作りを強要できるのは著者以外にはありえないし、他社本と同様の装丁を、出版社としてはあまり積極的には採用しないのではないかと思われるからだ。

●絵画に出てくるロングスカートの女性が、彫刻の像となってこの装丁にも登場してくる。顔以外は制作途中なのではないかな? と思ってしまうような、作りであるが、私にはそれがかえって面白く映る。有元の作品にはどの作品にもどこか、癒されるような魅力が秘められている。