描かれた猫…?

【描かれた猫…?】
 浮世絵師のなかで一番たくさん猫の絵を描いたのは歌川国芳といってもいいだろう。描かれた作品群は他の浮世絵師たちの追随を許さないほど秀逸なものばかり。
 そんな中でも、私のイチオシは「鼠よけの猫」だ。図中の文字を読み解くと
「この図は猫の絵に妙を得し一勇斎の写真(しょううつし)の図にして、これを家内に張りおく時には鼠もこれをみればおのずとおそれをなし、次第に少なくなりて出る事なし、たとへ出るともいたずらを決してせず誠に妙なる図なり 福川堂(※この絵の版元・川口屋宇兵衞)記」とある。
 鼠よけのお札のようなもので、獲物を見つけ今にも襲いかかろうとしている猫の姿は、あまりにも見事で、この絵を家の中に貼っておけば鼠は来なくなる、というのだ。まさに神っている国芳の絵といってよいだろう。
 ちなみに、首に巻いた赤い布は「江戸の飼い猫のおしゃれは赤い木綿を筒状に縫い金か銀の鈴をつけた首輪をつける事。上等なものは絹の麻の葉絞りになっている事もあります。」(稲垣進一、恿俊彦『江戸猫』東京書籍、2010年)とあり、この絵の猫は上等な首輪をつけた大切にされていた猫と言える。