拙書『製本探索』(印刷学会出版部)によく似た装丁で本を作って欲しいという条件付きで飛び込んできた文庫本判上製本、『鞦韆の詩』(創英社・三省堂出版)の装丁案が出来上がった。が、その著者が「表紙の布のような紙が気にいっている」という『製本探索』の表紙に使われている紙は、何を選択したのかを思い出せず、版元の印刷学会出版部に問い合わせることにした。ついでに、「よく似た本を……」と頼まれて、よく似た装丁の本を作っていることへの詫びも入れることにした。


左:森川宗弘『鞦韆の詩』(創英社・三省堂出版)、装丁:大貫伸樹
右:大貫伸樹『製本探索』(印刷学会出版部)、装丁:大貫伸樹


すると印刷学会出版部・社長の中村さんから
「ご無沙汰しております。本件,酷似していれば過当競争防止法に引っかかるかとは存じますが(要は読者が勘違いして購入して当社が不利益を被る場合),あくまで大貫さんというデザイナーのスタイルのデザインという範疇で,問題ないと判断できるかと存じます。結論は了解しましたと言うことで,何とぞよろしくお願い申し上げます。紙については武川からメールさせていただきます。」
との太っ腹な返事をいただくことが出来た。


少ししてから、副編集長の武川さんから
「1刷りは,フェルトン(ホワイト)四六判Y目 70kg
2刷りは,NTほそおりGA(新スノーホワイト)1091×788(四六判)Y目100kg
1刷りの用紙はもしかすると見返しの紙と間違えているやもしれません。
見返しの紙は,フレーバーボンド(ホワイト)四六判Y目110kg 
です。お役に立てていると良いのですが。」
との返事をいただくことが出来た。中村社長さん武川さん、御多忙中とは思いますが、素早い対応をしていただきまして、ありがとうございました。ふ〜う、これで何とか紙は解決か?


と、思いきや、そうは簡単に問屋が卸さない。鎌倉にお住まいの著者とはメールで連絡を取り合っているが、『製本探索』の「布地のような紙」が気に入っているという著者に、前記のメールを送り、どちらの紙をお好みなのかを尋ねると
「お尋ねの『製本探索』は、僕が持っている2冊のうち、手元にあるものは2刷です。もう1冊は上梓に当たって、『これと同じものを造ってください』と、みやび出版の伊藤雅昭社長に渡し、現在も彼の手元にあります故、初版か2刷かわかりません。」
との返事だが、私の知りたいのは、布地のような紙と言って好んでいるいる紙は、どちらの表紙に使われている紙なのか? ということで、手持ちの本が初版かどうかは意味のないこと。布地に近いということだと、一般的には「NTほそおりGA」だと思われるが、どちらも表面にテクスチャーのある紙なので、こればかりは勝手に判断することが出来ない。更にもう一度、著者へ質問内容を変えて確認のメールを送る。


そう言えば、印刷学会出版部から『製本探索』を刊行する時にも同じよう、前もって承諾をとった、ということがあったことを思い出した。それ以前に刊行された四六判上製本302頁『装丁探索』(平凡社)は、判型が異なるが「造本装丁コンクルールで受賞し、ゲスナー賞も受賞しているので、シリーズ本のようにした方が営業的にはいい」から、と言う理由で、『製本探索』(印刷学会出版部)は『装丁探索』(平凡社)によく似た本を作り、そのことを平凡社に承諾を得る電話をしたことがあった。
そのときに中村社長も、平凡社から同じようなことをいわれたに違いない。



左:大貫伸樹『装丁探索』(平凡社)、装丁:大貫伸樹
右:大貫伸樹『製本探索』(印刷学会出版部)、装丁:大貫伸樹


そんなこんなで、3社から刊行された本なのに、どこかシリーズ本のような雰囲気があるのは、デザイナーの手抜きでも、盗作でもなく、仕事である以上、様々な事情を背負い込んで書物の装丁というのは決まっていくことがあり、デザイナーといえどもいつも自分の意志の全てが反映されるというわけでもないということの結果なのである。


『装丁探索』を久しぶりに眺めることが出来当時を懐かしく思い出した。製作中に撮影する暗い場所がなく、夜になるのを待って徹夜で撮影をした。何度も撮影をしてパソコンに取り込んではやり直し、最終的には、撮影用のライトに紙のつつをかぶせスポットライトのようにして光を当て、これがとても印象的ないい写真になり、撮影が終った時は空が明るくなりはじめていた。