非水は1923年1月7日から同年12月2日までヨーロッパに遊学した。パリを中心として約40日間ずつの4冊の旅日記が残されており、46歳にして初めて迎えた外遊体験をつぶさに知ることが出来る。


非水の創作活動で、アール・ヌーボーからアール・デコへの転換期としてしばしば取り上げられるのが、このヨーロッパ滞在だが、この旅行で持ち帰ったといわれる300種ともいわれるポスターの全貌はすでに知ることは難しくなっており、この旅行と創作活動を関連づけるのは難しい。2009年、宇都宮美術館で開催された「杉浦非水と眼と手」展において展示されていた、非水が持ち帰ったポスターからは、その後の作品に影響を与えたであろうと思われるアール・デコ様式のポスターを見つけ出すことは、出来なかった。



2009年「杉浦非水の眼と手」展、於:宇都宮美術館


ヨーロッパ到着後の半年間は、パリを離れずに語学学習や美術館、展覧会巡りに費やしている。その後、ノルマンディ地方パニョール滞在後、ヨーロッパ各地を周遊する予定だったが、1923年9月1日の関東大震災発生により、旅程は途中で切り上げられ、帰国を余儀なくされた。