岩田専太郎を画風を端的に言葉にすると「浮世絵の伝統を基盤にしながらも、時代に流行を敏感にとらえ、つぎつぎの画風を変化させていった」(松本品子、弥生美術館編『さし絵画壇の奇才岩田専太郎』河出書房新書、2006年)と、いえるだろう。時代小説と女だけではなく、現代小説、探偵小説など、どんなジャンルのものでも作風にマッチした新しい感覚の風を吹き込んでいった。


チャブ屋*の世界では名の通ったメリケンおこまの淫蕩無頼の生涯を描いた、野坂昭如『浮世一代女』(新潮社、昭和48年)の表紙絵は、ちょっと見、専太郎の絵とは判りにくい。そのくらい大胆に画風を変えることができるのが、専太郎だともいうことができる。(*チャブ屋=横浜・神戸などの開港場で発達した、船員や外国人相手の手軽な小料理店。幕末明治初期の語。「広辞苑」)



岩田専太郎:画、野坂昭如『浮世一代女』(新潮社、昭和48年)


この『浮世一代女』にはさし絵が入っていないが、「小説新潮」(昭和45年1月)に連載された時には、下記のような岩田専太郎のさし絵がついていた。



岩田専太郎:画、「浮世一代女」(「小説新潮」昭和45年1月)部分。雑誌に掲載された当時のこんな絵が単行本にも挿入されていたら、売れ行きもさらに伸びたのではないだろうか。