さて、それでは、挿絵の女性とは誰なのか? この絵に描かれている女性については、さまざまな意見が交わされているが、私は見たままの素直な感想として、まだまだ日本髪が中心だったと思われる明治の女性の髪形には見えず、西洋の絵などを参考にしたものではないかと思ったのが第一印象である。


鳳昌子『みだれ髪』には、「みだれ髪」という語が登場する句は、29、56,90,260の4首につかわれているだけ(【与謝野晶子『みだれ髪』の「みだれ髪」】岡山大学大学院文化科学研究科紀要第十六号)であり、夫でもある鉄幹の『紫』には、晶子を「乱れ髪の君」といって謳った句が8句あり、それらを考えると、表紙の女性は晶子の髪の様子を描いたもので、タイトルの『みだれ髪』は晶子の愛称からきたのではないかとする説もある。これも説得力がある。


鉄幹は「明星」8号(明治33年11月)に

 秋風にふさはしき名をまゐらせむそぞろ心の乱れ髪の君

 わが歌にわかき命をゆるさんと涙ぐむ子の髪みだれたり

と、詠んでおり、9号にも

 あな寒むとたださりげなく云ひさして我を見ざれしみだれ髪の君

と、晶子を「みだれ髪の君」と表現している。


晶子自身も『明星』第十一号(明治34年2月、96ページ)に発表した「落紅」という歌群に本名の代わりに「みだれ髪」というという雅号を使っている。このようなことを考慮すると、「みだれ髪」というタイトルは、与謝野晶子自身の愛称である、という説が首肯ける。