図鑑ではないが、ジャネット・マーシュ著、大庭みな子訳『水辺の絵日記』(TBSブリタニカ、1986年)は、水彩画のみごとさに魅せられて20年ほど前に購入した本だが、今でもお気に入りの1冊だ。


開高健の刊行の言葉には「人と木はたがいに生かしあわねばならない。すでにきられて紙になってしまった木は、それに見あうだけの事物につくりかえられねばなるまい。……これらは、鳥獣虫魚についての、心の純正食品となるはずの、記録であり、讃歌である。昨日までの自分を捨てる頁である。書棚にいつまでも取っておきたい“今日”である。これが明日の遺書とならぬことを。」とあるが、まさにその通りで、購入してから20年以上も経ち、1万冊に迫ろうという書庫のなかでも、ひときわ存在感のある本だ。



ジャネット・マーシュ著、大庭みな子訳『水辺の絵日記』(TBSブリタニカ、1986年)



ジャネット・マーシュ著、大庭みな子訳『水辺の絵日記』(TBSブリタニカ、1986年)



ジャネット・マーシュ著、大庭みな子訳『水辺の絵日記』(TBSブリタニカ、1986年)



ジャネット・マーシュ著、大庭みな子訳『水辺の絵日記』(TBSブリタニカ、1986年)


この本は、イギリス人女流水彩画家・ジャネット・マーシュ(1953年〜)の画文集だ。14歳の時に、父の釣りについてイッチェン川いった時に、釣りには退屈してしまったが、「魚が驚くから歩き回らないように」といわれ、草むらにじっと寝ころんでいた時に花や虫を眺めるうちにそのとりこになってしまった、という。


その後、ロイヤル・カレッジ・オブ・アートで水彩画を学び、結婚してロンドンに住むようになってからも、イッチェン川畔にある父の釣小屋に通い観察と画業を続けた。ジャネットの絵と文は「サンデー・タイムズ」に発表され、広く知られるようになり、フィリップ殿下のコレクションとして買い上げられたという。


彼女が愛する一チェン川の谷に高速道路が横断する計画が持ち上がり、ジャネットは計画反対を訴えながら彼女のアルカディアと小さな虫や植物たちを守りぬき、ますます愛惜する一チェン川の仲間である鳥獣虫魚への観察と画業に拍車がかかった。



ジャネット・マーシュ著、大庭みな子訳『水辺の絵日記』(TBSブリタニカ、1986年)
イーストン村の教会の見える風景



チョークストリームと呼ばれる白亜質の丘を流れるおだやかなながれの川。フライフィッシングをやる人たちの憧れの川だ。
ジャネット・マーシュ著、大庭みな子訳『水辺の絵日記』(TBSブリタニカ、1986年)


後に、ジャネット達の自然保護運動が実り、高速道路は迂回する事になり、イッチェン川上流は一級自然保護地域に指定された。