明治40年前後の図鑑ブームについて、俵浩三『牧野植物図鑑の謎』(平凡新書、1999年、660円)には「明治四〇年に小学校令を改正して義務教育の尋常小学校を従来の四年制から六年制とし、翌四十一年から実施した。それに伴って、従来は高等小学校に配分されていた理科が、尋常小学校の五、六年生に配分されることとなったので、全ての児童が義務教育として理科を学ぶことになった。また、小学校の就学率は、……明治四十年には、男子九八パーセント、女子九六パーセントに向上した。そのため、この時代には理科を学ぶ児童が急激に増加したの


さらに「明治四〇年ころの理科教育は、身近な自然観察が基本であり、なかでも植物を教材とすることが主流だった。しかも理科の教科書は使用禁止であり、『一つの小学校ごとに異なった教材を選択しなければならぬ』ことが要求されていた。理科を担当する教師としては、それぞれの郷土の植物についての知識を深めることが不可欠だったのである。」と、全国共通の教科書はなく、自然観察を中心に、それぞれの郷土にあった授業をしなければならなかった。先生は自然科学の教養を身に付けなければならなくなる。そのことがブームの原因になったものと分析している。


俵浩三『牧野植物図鑑の謎』は、村越三千男『大植物図鑑』(大植物図鑑刊行会、1925年)と牧野富太郎『日本植物図鑑』(北隆館、1925年)の発行日がほぼ同じであることから、村越と牧野の関係など、さまざまな疑問を抱き、多くの資料を使いながら一つ一つ解明し、定説となっている事柄をくつがえしていく。楽しく読み進むうちに植物図鑑の歴史についてもかなり詳しくなる、ダントツに興味を魅かれたお薦めの本だ。



俵浩三『牧野植物図鑑の謎』(平凡新書、1999年、660円)
川西政明鞍馬天狗』(岩波新書、2003年、700円)


川西政明鞍馬天狗』は、鞍馬天狗は一体何人切ったのか?という視点から読み進み、大佛次郎が登場人物に語らせたかったのはどんなことなのか、などについて解説しながら、幕末の史実についても詳しい説明をしてくれる。これも最近読んだ本の中では、夢中にさせられた、これもダントツに面白いお薦め本です。