初夏を代表する凉げな和菓子にアジサイの葉に載せた水ようかんがある。わが家のベランダにも鉢植えのアジサイが満開で、葉っぱだけはいつでも用意してあるのだが…。このアジサイの葉、実は古くから青酸配糖体が含まれ毒性があるとされている。八丈小島に生息する、草食で何でも食べてしまう野生のヤギだが、アジサイだけには全く口を付けていなかったという。くれぐれもアジサイの葉は食べないように!


 紫陽花(アジサイ)は花の色がよく変わることから、「七変化」「八仙花」とも呼ばれる。他にも葉が便所で使われることから、シモクサと呼ぶ地方もあるようだ。中でも、冗談から駒というか、嘘から出た誠でもいうのか、「オタクサ」という呼び名の由来は面白い。


 江戸時代に、出島に滞在したドイツ人医師のシーボルトが、自著の中で、アジサイが日本で「オタクサ」と呼ばれているから、と「otaksa」命名の由来をドイツに紹介した。が、植物学者・牧野富太郎は、この呼称が日本国内での使用が確認できないことを突き止め、シーボルトの愛妾の楠本滝(お滝さん)の名を潜ませたにちがいないと推測。美しい花に花柳界の女性の名をつけたことを強く非難した。シーボルトの著書「日本植物誌」(Flora Japonica)にしか存在しないはずの「オタクサ」だが、その言葉の由来にロマンスを感じた文人たちにもてはやされ詩歌などに登場するなど、今ではオタクサ祭が開催されたり土産物ができたりと、「オタクサ」という呼び名は新たなアジサイの別称になろうとしている。



写真右/青山二郎:装画、中里恒子『朧草子』(文藝春秋、昭和51年)
青山の装丁は、古い皿などの絵を模写したものが多く、このあじさいもそんな気がする。なぜアジサイを表紙絵のモチーフに選んだのか、ということを色々と探ってみたが、とうとう分からなかった。