股旅物の挿絵では岩田専太郎にも引けを取らない堂昌一の装画もいいのでぜひご覧頂きたい。

 紋次郎は上州新田郡三日月村の貧しい農家に生まれ、生まれてすぐに間引きされそうになる所を姉おみつの機転に助けられる。「間引かれ損ない」として薄幸な子供時代を過ごした紋次郎は、10歳の時に家を捨てて渡世人となる。
 堂昌一は「七歳の時、父は他界した。私と母は姉の婚家へ引き取られた。中学一年の時、姉の婚家の破産。そして姉の離婚、私は学校を昼間から夜間へ転校した。他人のメシも食った。辛い浮世の現実にもぶつかった。他人に言えないことも、言いたくないことも、沢山あった……」(『堂昌一挿絵画集』ノーベル書房、平成4年9月)、戦後間もなく姉と一緒に銀座に喫茶「ねすぱ」を開店する。
 そんな堂の仕事には、笹沢佐保潮来の伊太郎 大利根の闇に消えた』(読売新聞、1973〔昭和48〕年)、笹沢佐保「日暮妖之介」(「週刊小説」昭和47年?)など、股旅物が多いのも、堂の生い立ちと無縁ではないように思える。



堂昌一:画、笹沢佐保『帰って来た紋次郎』(「新潮文庫」平成9年9月)
木枯し紋次郎』は、1972年1月1日よりフジテレビ系列テレビドラマとして放映され、その時の紋次郎役に中村敦夫が大抜擢された。1972年東映制作の映画では菅原文太が、1991年、単発のテレビドラマでは岩城滉一が、2009年には江口洋介が紋次郎を演じているが、この表紙はどことなく中村敦夫紋次郎に似ているようにみえる。壊れかけの三度笠、薄汚れた道中合羽、は原作通りだが、長い楊枝はテレビドラマ用に長くした、と聞いているので、この長い楊枝はドラマ用の写真を参考にしているのではないかと推察する。



堂昌一:画、笹沢佐保『帰って来た紋次郎 同じく人殺し』(「新潮文庫」平成10年9月)




堂昌一:画、笹沢佐保『帰って来た紋次郎 さらば手鞠唄』(「新潮文庫」平成11年9月)



堂昌一:画、笹沢佐保『帰って来た紋次郎 かどわかし』(「新潮文庫」平成11年5月)




堂昌一:画、笹沢佐保『帰って来た紋次郎 悪女を斬るとき』(「新潮文庫」平成12年9月)