本文中に出る繪巻物の變化趨移する場面を一場面に表現したものとして、最も有名なのは伴大納言繪詞である。伴大納言は源左大臣を陥れる為めに應天門に放火をし、左大臣の失策とする。所が或日、左大臣の従僕鷹取の子と伴大納言の従僕生江の子とが喧嘩をする。子供の喧嘩に親が出て、生江は鷹取の子を蹴飛ばす。



「伴大納言繪詞」


鷹取は怒って「お前の主人は應天門に火附けしたではないか」と漏らす。それから足がついて、伴大納言は流罪に問われる。(この物語は「宇治拾遺物語」「三代實録」に出てゐる)此の子供の喧嘩の街頭活劇。父親が飛び出して來、相手の子供を足蹴にかけ、また母親がでて來て自分の子供を連れて歸る等の、三段の變化が、一場面に描かれている。


挿畫の右端に子供が喧嘩をしている。その上方左手に生江が怒り顔に走り寄って來るのが見られる。そのすぐ下は生江が鷹取の子を蹴飛ばしてゐる場面である。その稍や左上方に生江の妻が喧嘩相手の我が子を引きつれて歸って行く所が見られる之等趨移が一場面に見られる。(小原生)