病院の夜、そこには予想だにしなかった昼とは全く違った世界が繰り広げられていた。
消灯の時間が来て1時間ほど過ぎると、隣のベッドからはまるで豚小屋にいるかのような「ブビー、ブビー」と騒がしい豚のようないびきが聞こえてくる。
足元の方からはウシガエルのような声が「ぐえ〜、ぐえ〜」と一晩中聞こえている。
廊下の向こうの部屋から、病院中に響き渡る馬のいななきのような声がすると、ナースステーションから看護婦が飛び出してきて、馬のいななきをいさめる。
私は夢の中にいるのだろうか。これって、泉鏡花「高野聖」のあの夜のシーンにそっくりだ。
闇の中から私の目前に山の神(女)ならぬ、病院の神が出て来て手招きされたら無視できるだろうか。いや、そうしないとこの病院から脱出出来なくなるのかも。