挿絵家や装丁家の名前を示すサイン(落款)の解読に興味を持ち、200名ほど集めたが、『世界童話全集 世界童謡集(上)』(近代社、昭和4年)の装丁は誰が手がけたのか、ずっと気になっていたがわからなかった。見返しや扉、奥付に至るまで武井武雄を思わせるアール・ヌーボー風の見事なさし絵で飾られており、いずれ名のある装丁家の仕事に違いないと思っていたので、「すぐにわかるさ」と安易に構えていた。


巻頭口絵のノドの部分に薄い紙が破りとられた跡があるので、もしかしてその紙には名前が書いてあったのかも知れない。さし絵の隅には「TER」と書名が記されているので、「テル」と名のつく挿絵家を探してみたが、このサインをこの本以外ではなかなか見つけることは出来なかった。



宇賀輝彦:装丁、『世界童話全集 竹友藻風「世界童謡集」(上)』(近代社、昭和4年



宇賀輝彦:画、『世界童話全集 竹友藻風「世界童謡集」(上)』(近代社、昭和4年)、見返し



宇賀輝彦:さし絵、『世界童話全集 竹友藻風「世界童謡集」(上)』(近代社、昭和4年)、別丁扉(左)、奥付(右)



『世界童話全集 竹友藻風「世界童謡集」(上)』(近代社、昭和4年)巻頭口絵、画家名不明「マザア・グウスのお婆さん」、サインは「Mut」で「TER」ではない。この「Mut」も初めて目にするサインだ。



『世界童話全集 世界童謡集(上)』(近代社、昭和4年)、前扉に記されたサインの拡大


ところが、先週高円寺の古書市で、同じ『世界童話全集』シリーズの松村武雄『日本童話集』を150円で売っているのを見つけた。表紙は辛うじて付いているが、製本は崩れ、奥付もないぼろぼろの本だったが、何気なく手に取りパラパラと眺めていたら、何と装丁家名が前扉の裏面に記されているではないか。



宇賀輝彦:画、『世界童話全集 日本童話集』(近代社、昭和4年)巻頭口絵「浦島太郎」、「TERU」のサインがある。



宇賀輝彦:画、『世界童話全集 日本童話集』(近代社、昭和4年)「鴬姫」



宇賀輝彦:装丁、『世界童話全集 日本童話集』(近代社、昭和4年)函
函に書かれたタイトルロゴをみてもキネマ文字風の創作文字で、かなり仕事が出来る。かなり手慣れているように見受けるが、「宇賀輝彦」はGoogleYahoo!で検索しても一件もヒットしない。案外、有名人なのだが、私が知らないだけなのか?