白樺の樹皮を使った装丁

shinju-oonuki2005-08-17

横光利一の本が、「続装丁探索」に登場するのは、『時計』に続いて二度目である。横光はゲテ本が好きなのだろうか? 『時計』の装丁の時に、横光はどの程度かかわったのか、気になる所だが、詳しいことはわかっていない。
 
今回紹介するのは、横光利一『雅歌』(書物展望社昭和7年)。「書物展望」第4巻第4号の自社広告には、「装釘は白樺の樹皮を本書の爲にわざわざ信州に人を派して筏りとらして用いたる優雅なもので、廉價なりと雖も世の所謂豪華版に比し些かも遜色なく、近代人の書架に明朗たる光を放った美書である。」とある。「菊判白樺装151頁本文上質紙番號入」とあるが、「番号入」とは限定本ということだろうか。奥付には、「白樺版第一刷一千部)とあるので、架蔵書は初版の第34号ということになる。
 
しかし、限定とせずに、第一刷という断り書きがあるのが気になる。売れれば第二刷があるということなのだろうか。限定本でないからなのか、古書価は外のゲテ本に比べて一桁違うほどに安い。
 
白樺の皮を薄く剥ぐのはいったいどうやってやるのか、私もトライしてみたが、こんなに大きな面積で、薄く剥ぐのはかなりむずかしい。薄く剥がないと堅くて加工が難しく、コーナーなどを折り曲げたりすることが出来ない。樺細工という伝統工芸があるくらいだから、確立された技法があるに違いない。
 
この本も杉皮装と同じように、こすれたり、曲げたりに弱いという欠点がある。背や表紙の天地などで、角になるところが剥がれる。函に入れると平もこすれる。しかし、それを償ってあまりあるほど味わい深い装丁になるのはまちがいない。古書店では、こすれを防ぐためか、それを隠すためか、ほとんどが、トレーシングぺーパがかけられている。
 
私も本がでたら、杉皮や白樺の皮を使った限定本を10部くらいの作ってみようと思う。
 
書影は横光利一『雅歌』(書物展望社昭和7年