大貫伸樹の続装丁探索(木下杢太郎『雪櫚集 』)24

shinju-oonuki2005-08-08

この書物の装丁に齋藤昌三がかかわっているかどうかは不明であるが、書物展望社の発行である。木下杢太郎『雪櫚集』(書物展望社昭和9年11月)は私の大のお気に入り装丁で「添い寝本」の一冊である。体裁は「四六判著者筆木版二十數度手摺美装三三六頁挿畫二圖」とある。
 
「書物展望」46巻(昭和10年)の巻末にある自社広告には、まず杢太郎について「公生活に於は冷厳苛棘の自然科學者、私生活に於ては?純自適の藝術家、これが我木下杢太郎氏の盾と矛の兩面である。即ち公生活上の太田正雄氏は東北帝國大学醫學部の教授として日々孜々醫科學の深奥に倦くなき追及を續けつつ、一歩學苑を出ずれば忽ち幽韻切々たる抒情詩人木下杢太郎氏と變貌する。小説を作り、劇曲を按じ、更に洋風畫筆を弄しては専門家をして瞠惹たらしめる。『雪櫚集』一巻はこの科學者としての正面と文學者として或ひは美術家としての側面とを遺憾なく表現した。」と、正に八面六臂の活躍をするマルチタレントである。
 
装丁については「装幀は著者の彩筆を木版二十数度手摺としあくまで澁くも豪奢に仕上げた九年木版摺裝中の逸品。著者筆の挿畫二圖、内容體裁相倶に近來の快著として全讀書階級の人々の御精讀をお薦めする。」と、木版二十数度摺という、限定本でもないのにかくも驚くほどに手間をかけるのは、著者のこだわりか。あるいは、職人・彫師の意気込か。