101冊の挿絵のある本(73)その1…『風俗画報』第123号「新撰東京名所図会1編 上野公園之部 上」東陽堂、明治29年)に掲載された挿絵12点を紹介します。
今回は、「上野公園之部 上下」を2回に分けて紹介します。
上野浅草界隈は、江戸市中では最も人気があった江戸一番の観光名所だったのだろう。『新撰東京名所図絵』では、上野を第1、2編で取り上げ、浅草を第3、4、5編で取り上げている。広重も「上野清水堂不忍の池」など不忍池・上野あたりを描いた作品を多数残している。京都の清水寺を模倣した建てられた清水堂の上からは、不忍池、中島弁財天、本郷台地の大名屋敷を一望することが出来る花見の名所として知られた。
●『新撰名所図絵』……東陽堂の雑誌『風俗画報』が刊行された明治23年(1890)は、帝国議会が開設された年であり、また東京上野公園では第三回内国勧業博覧会が開催され、浅草には凌雲閣(浅草十二階)が建設された。東京の近代化に伴い、この年には数種類の「東京名所図絵(図会)」が刊行され、東京の近代化を象徴する数多くの銅版画が収録された。
『新撰東京名所図会』は、『風俗画報』の臨時増刊として、明治29年(1896)から44年まで14年間にわたって64冊が発行された。シリーズを通じて石版画のグラビアに画家・山本松谷(昇雲)が筆をふるった。巻頭を飾る見開き色刷りの作品から単色の作品まで、ほぼ毎号にわたり紙面を飾り、取材編集、執筆を手がけた山下重民らの記事と共に、江戸から明治東京の風俗を石版画や銅版画、写真に、記事や解説とを交えて、今に伝える貴重な資料となっている。