春の訪れを知らせる花たち

今はもう誰も住んでいないふるさとへ墓参にいったときに、いつも思いだす歌「人はいさ 心も知らず ふるさとは 花ぞ昔の 香ににほひける」(紀貫之)がある。人の心は変わりやすいものだから、あなたの気持ちは、さあどうかわからない。けれど昔なじみのこの里は、梅の花だけは昔のままの懐かしい香りで咲きにおって私を迎えてくれる。
 60年以上も前に見たのと同じ場所に、人の気配もなくなってしまった今も、けなげにみごとな梅の花を咲かせている。


薮椿(やぶつばき)は孤独や静寂が似合う……と思う。群れずに一つぽつんと咲いている姿に出合うと「おっ、やってるな!」って感じでつい微笑んでしまう。誰が見ようが見まいが、ただひたすら自分ができる最高の表現しているように思えるから。
椿三十郎』の流れてくる大量の赤い椿も白黒映画でしたが感動でしたけど……矛盾してる?


陽当たりのよい枯れ草ばかりの田んぼの土手に、銀色に光り輝きながらふっくらと膨らんだネコヤナギを見つけると、あっ春がやってきたんだな、っていう思いがわいてきて、なんとなく嬉しくなりワクワクしたものだった。
 昨日、近所の農家の裏庭で見つけたネコヤナギに、この水ぬるむ季節になると、田んぼに入り泥んこになって、ドジョウやメダカを捕まえたのを懐かしく思い出した。
 猫のしっぽのように、滑らかな手触りが嬉しくて、ついつまみ取ってみたくなったが……我慢した。